ぼちぼちでええやん。

人の動きについて根っこから理解したいと思ってます。シンプルラーニング提唱者、キネステティク理事、YOUTUBE「楽な動きの学習会」ブログは癖が強い記事が多めです。

Q.どんな箸を使えばいいでしょうか?

デイサービスにて

 

Q(質問者 デイサービスの職員)

最近来られた利用者さんで手がパーキンソン病で動かしにくいため、家では病院の人から勧められた、このような(※下図参照)を使っています。認知症もあるかもしれません。どのような箸を使ってもらえればいいですか?

 

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※わかりやすくするためにこの箸を自助具箸と呼びます。

 

A(解答者 私です)

デイサービスの様子はどうですか?

 

Q

今日も自助具箸を使って、食事した時も途中で手がしんどくなってしまって、箸をやめてスプーンで食べてもらいました。

 

A

実際どのように箸を使ってるのか、ちょっと見せてもらいましょう。なるほど、そのように使うのですね。普通の箸と、家で使ってるような箸を比べててみましょう。

 

観察

確かに指はぎこちないですが、手指は動きます。自助具箸は何やら普通の箸に比べてぎこちないですね。普通の箸も持ち方は独特な反対にクロスしたような持ち方です。が途中で一般的な箸の持ち方に変わってきました。

 

A

なるほど。では割り箸を使ってみてください。

 

Q

おお、普通に使いやすそうです!スムーズにお皿のものを使ってます!いったいどうして??

 

A

まず箸を使う上でしっかり押さえておきたいポイントがあります。

 

僕らは箸をつまむためだけに使用しているわけでありません。すくったり、刺したり、裂いたり、色んな使い方をします。

 

またつまむにしても、色んな形状のものに合わせて箸の角度を変える必要があるのです。質感の違いによって力を変える必要もあります。

 

このような自助具箸では、箸の動きそのものを固定されて開くか閉じるかしかできません。一見それだけならやりやすそうに思えるのですが実は逆です。食べ物に対して色んな角度で摘めないという制限がかかります。

 

とくにこの人は手がぎこちないのです。それなのに箸を固定すると、余計にやりにくくなります。

 

さらに、持つ場所も、指にあわせて一見持ちやすいようになっていますが、これがよくありません。先程も言ったよう箸は色んな使い方をするのですから、持ち方も色んな持ち方ができないと機能的ではありません。つまり使いにくいのです。

(正し、つまむことに特化しているので、つまむ用途にだけ絞れば使いやすいです)

 

A

なるほど、一見使いやすそうに見えて、実は使いにくい箸を提供してたんですね!!

 

Q

もちろん、このような箸が全く役に立たないわけではありません。この箸が必要な人もいます。しかし思ってるよりもかなり特殊な場合に限られるのです。

 

実際職員もその自助具箸で食べてみるといいでしょう。かなり使いにくいと思うでしょう。機能の制限がない職員でも食べにくのに、利用者は余計食べにくいのは当たり前です。

 

割り箸がいいのは、先端が四角なのと、木の素材により滑りにくいのです。また多くの人が昔から使いなれています。自助具箸のような使いなれてないものより、手がすでに馴染んでいるのです。さらに色んな持ち方にも対応できます。

 

実際、僕の経験上、他の利用者さんで特殊な箸やスプーンを買わされたけど、普通の箸の方が食べやすかった。なんてことは山ほどあります。

 

ただ普通といっても、細めのプラスチック箸や、小さすぎるスプーンなどは人によって難しい場合があります。普通の中でも素材や柄の太さなど全く違うので、本人にあったものを探す方がいいでしょう。しかし逆に小さいものの方が使いやすいという人もいます。ただいきなり自助具食器を選択しない方がいいですね。

 

A

なるほど。実際明日はこのお箸で私が食べてみます!

 

Q

無料で出来る研修ですからね。是非やってみてください。

 

ちなみに柄にスポンジがついてるこのようなものを結構使いにくいです。

※下図参照

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これは自称持ちやすいとうたってますが、持ちやすいかもしれませんが、食べにくいのです。

なぜならスポンジがふわふわしているので、細かい食べ物の感触が手に伝わりません。さらに柄が太すぎるので色んな持ち方ができないのです。さらに!不安定なスポンジのためスプーンが安定せずギュッと握るために、手を固め使います。持ちやすくても食べにくければ本末転倒もいいところです。

 

さらにこのスプーンは手全然で握って、使う人がいますが、すごい食べにくい動きになります。

 

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こうやって握ると手指も手首も固定されるので、肘や肩をぐりぐり回しながら食べたり、逆に口を近づけていかなければいけません。

 

フォークを曲げて使えばいい。と思うかもしれませんが、色んな食材を救うのです。結局微調整は適宜、関節を調整して使う必要があります。

 

それから

シリコン製のものも安易に使わないほうがいいでしょう。もちろん自分で食べてスプーンを使ってケガする人に助けになりますが、介助で使うものではありません。

 

こんなやつです

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なぜなら、柔らかすぎるのです。柔らかすぎて口の中に入ってるのが曖昧になります。食べてる!!って感じが鈍くなり、認知症の重度なひとに使うと、咀嚼や飲み込みという反応が出にくいです。

 

もちろんケガをしないという意味では非常に役に立ちますか、一般的な食事介助では丁寧にするスキルを養えば問題ないことです。

 

ためしに、この柔らかいシリコンスプーンでカレーを食べてみてください。ドロドロ感が極まって味が落ちます。食器だけでこんなにも味が変わるのかと驚くでしょう。固いシリコンならまだいいかもしれませんが。

 

A

んーここにあるのは、昔からカタログや展示会で使われていたものですから、それを使うことが正しいんだと信じてました。

 

Q

安易に作られた商品は山ほどあるのです。実際役に立つかどうかは、自分たちで使ってみて、さらに本人に使って、この道具を使えばいいとおしつけるのではなく、比較しながら一緒に利用者さんと選んでいくスタンスが大切ですね〜

 

先程も言いましたが、持ちやすいと食べやすいは全く違います。職員も道具の使いやすさをすぐに決めつけず最低1日ほど自分の生活で使ってみて、それでも使いたいものか検討するといいでしょう。

 

A

カタログでも色んなものが紹介されすぎて、訳がわかりません。だからこそしっかり使って比較していくことが大切なんですね。

 

Q

そういうことです。そうして比較していくと職員も利用者も学習していきますから、どんどん選び方も賢くなっていくでしょう。

 

A

ありがとうございました!

 

Q

最後に1つだけ大切なことをお伝えします。それは食器を統一しないことです。

 

詳しくはこちらにも書いてますが、同じことが食器選びにも言えます。

リハビリやケアの場面では『統一』よりも『探求を』 - ぼちぼちでええやん。

 

多くの現場で、この人はスプーンとか、箸とかセッティングしがちですが、機能が低下してない人でもスプーンや箸を使い分けています。

 

実際食事場面では、色んな食材、料理があります。使う本人も日によって状態は違います。それに合わせて食器を使い分けるのが能力の高さです。

 

もちろん利用者が上手く使いわけてもいいし、それが難しいなら、職員がその人にあった食器を試行錯誤しながら使いわけていくことです。

 

1つに決めてしますと、それ以外はしない。ということですから、明らかに食事する能力は落ちていきます。

 

ですから、この人は箸、この人はスプーンと決めつけるのでなく、リスク管理をしながら、統一せず色んな食器をその場面、その人の能力に応じて提供することがプロなのです。

 

調子良いときは箸で、そうでない時はスプーンってこともあるでしょう。そういう使い分けが大切です。

 

食べ方を押し付けないでくださいね。

 

もちろんいきなり全て上手くいくわけはありません。実際ためしてみないとわからないとこともたくさんあります。だからこそ、決めつけず利用者と一緒に何がいいのか試行錯誤することが大切です。

 

A

ついつい統一することがいいと思ってしまいますが、私たちでもスプーンやフォークなど色々使い分けてますもんね〜

 

ありがとうございました。色々決めつけず、押し付けず、一緒に探していきたいと思います。ありがとうございます。

 

 

 

《解説》

ということがありました。

 

シンプルラーニングの機能的な動きの定義の1つに多様性があります。それは箸の持ち方1つにしても当てはまります。食事も動きですから。同じ定義で考えて問題ありません。

 

このようもつことが正しい持ち方ですよ。このように使うのが正しいのですよ。そんな風に押しつけてしまえば、どんな箸でも使いにくくなります。

 

また手の形ばかりみて、何ができるのかという、機能を見なくなってしまいます。

 

動きを見るときに考えるポイントは難しくありません。視野が狭いからわからなくなるのです。

 

そもそも箸の持ち方が間違ってるとかそんな問題ではありません。箸を挟むだけのものと考えていてもわからなくなるでしょう。

 

考え方としては

色んな箸の使い方ができるか

色んな持ち方ができるか

色んな箸以外の食器が使えるか

 

そんな風に見ていくと

自ずと機能が見えてきます。

 

形ばかりみていては

その人箸の使い方なんて見えてきませんよ。

 

また、福祉用具1つとっても

学びの要素である比較をしていくこと

学習していきます。

 

こちらから一方的に

これがいい

と答えをあてがうのではなく

一緒に試して試行錯誤してみてください。

 

そうすることで

より利用者も援助者も

福祉用具を選ぶプロセスから学ぶのです。

 

それも学びです。

これもシンプルラーニングの実践です。

 

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