ぼちぼちでええやん。

人の動きについて根っこから理解したいと思ってます。シンプルラーニング提唱者、キネステティク理事、YOUTUBE「楽な動きの学習会」ブログは癖が強い記事が多めです。

大切な経験は宝として伝えていく

 

1.師匠は実践の中に

突然ですが、僕にはたくさんの師匠がいます。

それは、実際に動きの教育に関わらせてもらっている利用者や、参加者です。

 

具体的に言うと、訪問リハビリなどで関わらせてもらう利用者さんです。

アプローチしていると実にたくさんの発見があり、一つ一つの豊かな発見を元にシンプルラーニングが構成されていると行っても過言ではありません。

 

その師匠が先日、急になくなったのです。

 

2.今までの実践の経過

初めて会った時は2.3年前で寝たきりの身体が大きいおじいさんでした。

 

病院にいることでどんどん寝たきりになって、いてもたってもいられず奥さんが無理に退院させたのです。

 

嘘のような話ですが、歩いて入院して、数ヶ月で寝たきりになって、リクライニング車椅子で退院するなんて話はこの業界において珍しくないのです。特にその時は寝たきりに直接結びつくような内科的な疾患はありませんでした。身体拘束をされており、明らかにそれが原因だと思われます。

 

とりあえずなんとかしてほしいという事で訪問リハビリを開始しました。

特に左の股関節の炎症が止まらず、痛みがあるとのことです。

 

見ると真ん中が縁が硬いエアマットレスの上に、真ん中には柔らかくなっているのですがそれが逆にくぼみを作りすっぽりはまり込んでいます。ゴソゴソなんてできるわけもありません。手足は半分ぐらい固まっており、無理に伸ばしても伸びません。足先はがっつり尖足と呼ばれる足首が固まったまま動かない状態でした。踵には床ずれもありました。

 

寝返りの介助をしようにもまるで、マットレスと地面がくっついたようでとっても重いのです。それでも少し横を向けると肩が固いのですぐに負担がかかり痛みが出ます。体重も80キロはあり、身長も180センチととても大きな人なのに、奥さんは小柄です。

 

起き上がることもできないので、基本的にベッドに寝たままか、電動ベッドを使って強引に固い体を挟み込むように曲げて座ってもらうかです。

 

今でこそ「寝たきりから歩行までの動きの学習の支援」をテーマにしたセミナーをしておりますがその時は明確な戦略は持ち合わせていません。

 

ただ、シンプルラーニングの概念のベースは出来上がっていましたから、その考え方を元にどうすれば良いか試行錯誤で関わりました。

 

初めての訪問ではとりあえず見て欲しいと言う、様子見訪問みたいなものです。内心、痛み以外たくさん課題があると焦りながら、とりあえず股関節の痛みが取れたらいいかなと思い丁寧にアプローチしました。幸い、初回の訪問時に股関節の痛みがかなり取れたようで次回からも来てほしいと連絡をもらいました。

 

こちらも不安感はありましたが、ご家族、本人とともに少しずつできること詳細に分析し積み重ねていきました。

 

3.本格的に動きの学習を積み上げていく

実際に簡単の動きから、ほんの少しずつ複雑に利用者さん本人が動きを学習するように進めていきます。奥さんにはポジショニングについての考え方、福祉用具の状態にあった導入と再検討、使い方の練習、食事や排泄、オムツ交換など生活支援に関する様々なことを少しずつ学習してもらい、実践していきました。

 

この時の経験が、今のシンプルラーニングのスキルアップコースの「寝たきりから歩行まで動きの学習を支援する」という構成に大きな助けになっていることは間違いありません。

 

奥さんの丁寧なケアもあり、少しずつ最初は食欲もなくなっていましたが、自分が学習できることを体験から理解すると、目の力や声の張りが全く変わって来ます。活気がでるのです。そして「腹減った」とたくさん食事を食べるようになりました。糖尿もあるので逆に食事制限が困るぐらいにも。焼肉食べたいっておっしゃられていのが印象的でした笑

 

本当に寝たきりだったので、初めてベッドの端に座れた時はご本人も、奥さんも、涙されていたのを今でもよく覚えています。とても感動的な場面でした。まあ、当たり前になると、もう慣れてしまったわと冗談が出るぐらいになるのですが笑

 

最終的には寝返りや、ベッドで左右に動いたりすることは自分でできました。軽い介助であれば起き上がり、自分で座り、自分で座位を保持できるばかりか、少しな座位の状態でお尻を浮かしたり、横に移動したりすることもできて家族を驚かせていました。尖足も少しずつ無くなって、足は立てそうな質感を取り戻していきました。

 

そうそう自分でご飯も食べられるようになりました。エアマットから普通のマットレスに交換し、それでも体の痛みは基本ありません。

 

元気に過ごしていましたが、その後他に見つかった病気により、食欲が低下し、急に亡くなってしまいまた。亡くなったことはとても残念ですが、ほぼ痛みなく穏やかに逝くことができました。

 

4.学ぶこと、その事自体が自分の可能性に気づくこと

それまでケアは大変だけど、この学習のプロセス自体が、とても穏やかな毎日を夫婦で送れたと思います。変化したことよりも、諦めの毎日ではなく、自分は変化していけると可能性に満ちた毎日だったことが僕は一番大切かと思っています。

 

大きは変化でなくても、小さな変化でも自分の可能性を見つめれるとうことは僕は素敵なことだと思います。

 

なぜ、このような経過を書いたかというと、僕はとってもたくさんのことを利用者さんの関わりの中で学ばせていただきました。本当に僕の師匠は関わった人たちなのです。

 

しかし現状では、高齢者の慢性的な寝たきりの人が、回復するなんて医療職の人はあまり信じてくれません。それも病院ではなく、在宅で。

 

実際、そんなことは考えられないと、なくなる一ヶ月前から訪問開始した医者に言われたそうです。ちょうど食欲が低下して動けないために診察してもらったのです。前から完全な寝たきりとして扱うのです。奥さんは今までの関わりを否定されてるみたいで嫌だと言っておられましたが、僕もそうです。

 

現在のリハビリでは、患者はもう回復しないとということもあります。それでも良くなろうと試行錯誤したり、努力することを障害を理解できてないリハビリ依存だと言ってしまってる事も珍しくありません。もちろん全てではなく、このような場合もあるということです。

 

もう回復することは諦めて、その身体で余生を過ごしなさいと医者やリハビリ職から言われることもあります。回復を手伝ってもらう人から言われると、諦めの烙印を強くおされているようなものです。

 

当たり前ですが、僕らは神様ではないので、回復を手伝うには、限界があります。しかし同様に神様でないからこそ、限界を決めることもできないと思います。

 

回復できない、動けないことを利用者や患者さんのせいにしてしまうと、それで終わりです。そこに丁寧に関わるからこそ、沢山の発見や学びがあると思います。

 

5.これらの貴重な経験を宝として伝えていく

これらの体験や学びは貴重な宝です。その宝を僕はこれから先、動きを支援するであろう医療職や介護職、ご家族などに伝えていければと思うのです。僕も師匠と関わった日々は思い出あり、とっても大事な経験です。

個人差はあると思います。より重篤な状態もありますし、誰しもが回復するとは限らないでしょう。しかし今よりもベターになることは多くの人に可能です。新しい考えを元に実践できれば、変化を望める人は沢山います。

それに、寝たきりになる前に足が固まらないようにケアできていたら、回復はより進んでいた事は間違いないと思います。

 

スキルアップコースは利用者さんと一緒に作ったようなコースです。いやシンプルラーニングそのものが、皆さんの関わりの中で一緒に作ったようなコースです。

 

この経験は僕がしっかりとつないでいきます。これからも、利用者さんと一緒に作ったコースを僕は行なっていきたいと思います。貴重な経験とみんなとシェアしながら、また新しい発見を今度は皆さんと一緒に学びたいと思います。